〈春・特別企画〉オトナ女子4人がバリトンサクソフォーン奏者 栃尾克樹さん について熱く語る

先生の音は、特別ですね。旨みとか甘みがぎゅっと凝縮された果実のような人の声にも弦楽器のようにもきこえます

斉藤佳音

突然ですが春なので特別企画です。
コアなオトナファンに人気のバリトンサクソフォーン奏者 栃尾克樹さんについて、音楽家オトナ女子4人が熱く語る。この演奏が好き!興味深いエピソード、栃尾さんの意外な一面まで音楽家ならではの視点で語り尽くしたいと思います。

参加者   Aさん(ピアニスト)  Bさん(声楽家)  Cさん(サックス奏者・生徒さん)  Dさん(サックス奏者)

 

5月の栃尾さん出演コンサート 5/4きたまち茶論コンサートvol.9  5/13バリトンサクソフォーンとピアノによるアルバン・ベルク「7つの初期の歌」

それぞれの「冬の旅」 体験 から

A ピアニスト) 栃尾さんの演奏の中で一番好き、或いは推したい♡のはどの演奏ですか?

B 声楽家) うーん、悩ましいところですが、「冬の旅」です! 理由は、声楽家が歌うよりも言葉が聞こえるところ。 何よりドイツ語が聞こえてくるところです。演奏から全て、文字の吹き出し💬があるみたいに、歌曲でもそうじゃなくてもなんでも、言葉が湧き上がってくるところに尽きますね…

A) 私も器楽演奏なのにもかかわらず、演奏からドイツ語のシェイプが聴こえてくることに驚きました。それに歌詞の内容も聴こえるよね!不思議!  

B) ほんと、不思議。2021年の大阪でのコンサートで字幕を担当していたのですが、とてもタイミングがわかりやすかったです。

A) そういえばあの時のコンサートは特別でしたよね。コロナ禍で世界が止まっている中で、栃尾さんと高橋悠治さんの演奏が凄まじく、24曲有るのに演奏があっという間に終わってしまった。そして信じられないような名演だったのに、終わってから心に残ったのはシューベルトの音楽とミュラーのテキストだったという。

C  サックス奏者) 私も一番すきなのは「冬の旅」かもです。2017.2019もライブで聴いていますが、2021の「冬の旅」は特に強く印象に残っています。いつのまにか始まって、いつのまにか終わっていました それくらい、ずっと胸の中に入ってきます 自然に。だけどその間は、先生と悠治さんの音楽に導かれて私の魂が旅してるような感じでした。しんとした世界をさすらうような。終わった時は、涙が溢れて止まらなかったのでした

A) みなさんそれぞれ特別な「冬の旅」体験をされていますよね。Dさんはいかがですか?

D サックス奏者)私は東京で初めて冬の旅を聴いた時(歌詞字幕なし)、栃尾さんの音の粒を聴きながら聴く側に言葉を委ねている感じもして、本を読んでいる空間(聴く側の想像)に連れて行ってもらいました!歌詞がないからこそのそれぞれの想像、妄想の世界!

「冬の旅」より 高橋悠治さんとのリハーサル
親身になってくれる先生です

A) 話変わって、栃尾さん、演奏されていないときどんな感じですか?リート(ドイツ歌曲)に造詣が深いところから、思索的で物静かな方かと思いきや、、、

C) 先生はとてもせっかちで全てが早いです。

A) たしかに。仕事ぜったいに溜めないですね。即レス。お願いしたこと、大抵一日で返してくださいますし。食べるのも早くないですか?

C) そうなんです。いつも早食いだけど、麺類の時に、口に入れた途端に次に食べる麺を準備しているのが気になります。

A) 近くでみている学生さんならでは、の細かな観察力! 大学ではどんな先生ですか?レッスンは厳しいの?

C)  レッスンはわりとあっさりめなのですが, 細かく言う感じでなくて生徒の良さを尊重するかんじです。でも悩んでいる時とかすごく親身になってくださいます。
それから先生の音は、特別ですね。旨みとか甘みがぎゅっと凝縮された果実のような人の声にも弦楽器のようにもきこえます

D)人間の声にも近く、歌曲を演奏されるにはピッタリだと思います。バリトンサックスではあり得ないコントロール力をお持ちですよね。栃尾さんの低音はもちろん、フラジオ(通常音域よりさらに上の音。特殊技法。)によって出される音色は儚さや優しさ等、様々な感情を表現してくれる。
私が心を揺さぶられたのはフランクのバイオリンソナタの第3楽章です!後半にフラジオ多めなんです。第3楽章から第4楽章に入った瞬間、涙がこぼれました。20代の頃に初めて栃尾さんの演奏を聴いて虜になった曲です。第3楽章でどんどん音が上行して行く部分の咽び泣くさまがとても素晴らしいです!

栃尾さんのフランクの演奏はこちらをクリックしてください

大切にしていること なんとも思わせない

A)  栃尾さん、演奏前にチューニングや準備を殆どされませんよね。大仏殿の奉納演奏のとき、法要の間、座って待っていたのですが、その間一切音出しされなかったです。その場の厳かな空気をこわしたくないから、と仰っていました。管楽器奏者にとって音出し無しでいきなり吹くのは、大変なことですか?それとも割と普通にやることですか?

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C) これまで先生から教わったことって、音楽や技術だけじゃなくて、演奏以外の細やかなことで大事なことが多いです。なるべくチューニングしないで出る、楽器のパタパタ音やノイズをなくす、無駄な動き、大きな動きをしない、とか。以前先生がおっしゃっていた、聴いている人に何も気にさせない?(演奏以外で気になるところがないようにする)というのは、ずっと心に留めています。音出し無しで吹くというのは、正直管楽器の中でサックスが最もやりやすいのは事実だと思いますが、それでもやっぱり大変かもしれません。実際にそうやっていることが凄いというよりも、そのマインドを尊敬するというか、演奏家にとって結構重要なことなのではないかなと思います。すごいと思わせるでもなく、なんか気になるなーでもなく、なんとも思わせないってのが大事なのだ、みたいなことをおっしゃっていた気がします!

A) 「自然に聴こえること」、ですね それはいちばん難しいことだとメゾソプラノの波多野睦美さんが常々おしゃっています。栃尾さんは普段から自然体で、演奏が自然に聴こえることと人としての在り様とは共通することがあるのかもしれないと,お話を伺っていて思いました。自然といえば、映画「電車男」のテーマソング、シンプルなのに自然に映像を伴って聴こえてきて私は好きなんですよ。2‘55“あたりから栃尾さんのサックスが聴こえてきます。心に沁みます。

「電車男」テーマ  服部隆之 曲

C)ひけらかすことがないですよね。技術的な問題を感じさせない技術もすごいです。常に、そこにある音楽に身を任せているだけ この自然さとか素朴さとかが、こんなにも心に染みる所以なのかなと思います。

D)演者として人として空気の様な、押し付けがましくない自然体と言うのがとても腑に落ちました‼️それでいて器楽曲になるとテクニック的にも素晴らしいっ!ホント沢山の引出しをお持ちです!最後に辿り着く先は楽器を超えた音楽(ココロ)でしょうか?歌曲を吹く事は(音符の数上)、さほど難しくないのですがサマにならないのがサックス奏者の課題です。どうしても派手になったり、余計な音楽になってしまったり。。。決して楽器を武器にされてない音楽性。それでいてその楽器をも完璧に操る技術力でしょうか。。