インタビュー《栃尾克樹・バリトンサックスの夕べ》

8月21日きたまち茶論コンサートvol.7では、日本屈指のバリトンサクソフォーン奏者 栃尾克樹さんによるバッハからマーラーまでの歌曲を中心としたプログラムをお聴きいただきます。絶美と評され、まるでドイツ語で語りかけるようなサクソフォーンの音色をお楽しみください。コンサート前に栃尾さんをより身近に感じられるよう、お話を伺いました。

最初に、楽器との出会いについて教えてください。


中学校の吹奏楽部でたまたまテナーサックスになりました。 その後、だいぶ経って東京藝術大学に入学して、しばらくしてアルモっていうサックス・クァルテットの結成に先輩に誘われたんです。その時には、ソプラノ・アルト・テナーはすでに決まっていて、一番若い僕がバリトンになったのです。カルテットでバリトンをやり始めたところ、とても面白かったものだから、ソロもバリトンでやり始めるなどしているうちに、20年ぐらい経って佼成ウインドのバリトンの募集があったので、それで入りました。


バリトンサクソフォーンのソロ楽器としての魅力はどういったところにあると思われますか?


雑誌とかでもいろいろ話しているのですけど、バリトンサックスを楽器としてアピール しようという気持ちはあまりなくて、やりたい音楽をやる時に一番自分に馴染んだ楽器で演奏した方が色んな事が出来るのではないか、いうことですよね。もしかしたらそれ はバリトンじゃなくてもよかったのかもしれない。ただ、自分が一番ストレートに感情移入できるのがこの楽器だったというだけの話です。


レパートリーについて、教えてください。歌曲や弦楽器のための室内楽作品を演奏されていますが、何か理由がありますか?


好きだから。自分の好きな音楽の傾向がバロックやロマン派なのです。サックスのために書かれた音楽だけやっていると、近現代に偏ってしまうんですよ。もちろんそういう音楽もとても面白いし、大切にしています。ただ、楽器の成立が19世紀半ばなので、一番古い作品でも19 世紀後半に作られたものになってしまう。だから 19 世紀前半ぐらいの、あるいは 18 世紀とか、その辺の音楽花ざかりの時代には サックスのための曲がないのです。バロックは言うまでもありません。サックスっていう楽器が存在してなかったんですからね。でもまあ、やっちゃいけないってこともないと思ってはいます。だって現代の楽器だって、例えばクラリネットやフルート、オーボエ、ファゴットにしても、17 世紀に作られた楽器から考えると明らかに形やシステムを変化させ、進化してきているわけだから。またバッハの曲をモダンのピアノで弾くということも。そういったことと同じようなことだと言えなくもない。


栃尾さんの演奏活動を拝見していると、バリトンサクソフォーンとは、こんなにさまざまなスタイルの演奏が可能なのかと、驚かされます。これまで経験なさった共演で印象深かった演奏について教えてください。


一つ挙げるのは難しいですが、やっぱり高橋悠治さんとの数々の共演かな。それと波多野睦美さん。3 人で「風ぐるま」というトリオもやっていて今年10周年です。このトリオは毎回違うところが面白い。それは同じ曲をやっても違ってくる。 ピアノ、歌、サックスは全然違うはずなのに、なんだか最近音色が似てきた様な気もするんです。その他だと、東京文化会館での野平一郎さんとの演奏会では、譜面を派手にぶっちゃけてしまった。あれを見た人はおもしろかったんじゃないかな。野平さんの書かれる曲は難解で近寄り難いんだけど、野平さんのピアノの音の美しさったらないですよね!あとは山田武彦さん。山田さんとはCD 入れたり、演奏会もいくつかやったんですよ。山田武彦さんは、もう自由自在。本当に面白いし、やるたびにたくさんのものをもらってます。


少し音楽から離れますが、演奏活動以外にはどのようなことをしてお過ごしになって いますか? ご趣味などあったら教えてください。


朝早起きして愛犬に散歩に付き合ってもらう。昼は大学に行き生徒たちとレッスンを通じて音楽を考えたりして、夜はビールを飲んでさっさと寝る。 昔はプロ野球を見るのがすごく好きだったんだけど、近鉄バファローズが消滅してしまったので、昔ほど球場に足を運ばなくなった。近鉄があったときは、近鉄が東京に来る試合、つまりロッテ戦、日ハム戦、西武戦、川崎とか後楽園、所沢っていうことなんですけど、自分のスケジュールが空いてる時は全部球場に観に行ってました。


コンサートを心待ちにされていらっしゃるお客様へ、当日のプログラムから、見どころなど教えて頂けますか?


僕の CDをいろいろ聴いてくださっている方はわかると思うんだけど、最初に出した CD に入っている「影の庭」という曲の元ネタを聴くことができます。マーラーの「浮き世の暮らし」と「美しいトランペットの鳴り響くところ」っていうのは、一番初めに 出した CD に入っている「影の庭」という曲の元ネタなんですよ。CD 作る前に演奏会 やっているんですけど、その演奏会で高橋悠治さんに何か一曲書いてくれませんか? ってお願いして書いていただいたのがその曲。


「影の庭」というタイトルにこめられた意味とは? 

「美しいトランペット鳴り響くところ」っていうのは要するに戦場から亡霊がやって来たみたいな話じゃないですか。死んだ恋人の魂が帰ってきたって話。影っていうのは、魂のことですよね。魂が集まって来たって。それが影の庭という曲のタイトルになっているんです。「影の庭」をCD タイトルにしたのは、いろんな曲が集まっているから。ジャンルはもう本当にノンジャンル。そう、クライスラーやフォーレ、それにバッハも入っているのですよ。だから国も時代もごちゃごちゃ。そんなごちゃごちゃなものが一つの庭に集ってくる。そういった意味合いで「影の庭」というタ イトルにしました。


今後のご活動について教えてください。


まずは、10月18日の浜離宮朝日ホールでの「風ぐるま」のコンサート。それから11月には佼成の大先輩である仲田守さんと、鬼才・啼鵬さんとのコンサートツアーがあります。もちろん、佼成ウインドのいくつかのコンサートも。他にも色々ありますんで、よかったらホームページ覗いてください!http://ktochio.com/

きたまち茶論コンサート vol.7 2022年8月21日

出演 栃尾克樹(バリトンサクソフォーン)  辻ゆり子(ピアノ)

日程|2022年8月21日((日))
場所|きたまち茶論北半田西町(奈良市北半田西町1番地) 
時間|①開演17時 (開場16時半)※2階席予定枚数終了
   ②開演19時( 開場18時半)
*2回公演を行います 休憩なし1時間程度
料金|1階席4000円 2階席2500円(※視界が遮られますが茶室で寛いでお聴きいただけます)
 *未就学児入場不可 各回限定25名 

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